空想商會

日々の記録。料理やカフェや雑貨の話題が多めです。

鍋で米を炊く

うちでは、米は鍋で炊いている。

きっかけは、2011年の東日本大震災だった。うちは被災地から離れていたが、東北にある夫の実家が被災した。さいわい夫の両親にケガはなく、家財道具の被害もわずかで済んだ。しかしライフラインの一部が停止した。水道は無事だったが電気とガスが止まり、電気の復旧には数日、ガスの復旧には約2カ月を要した。

義両親の家には旧式の灯油ストーブがあったので、彼らはそれで寒さをしのいだ。照明は懐中電灯と仏壇のロウソクで間にあわせた。食糧も買い置きしてあった。でも台所のガスコンロと電子レンジとIH式炊飯器は、どれも震災直後は使うことができなかった。

ところがこの状況下で、彼らはちゃんと米を炊いて食べていたという。地震発生から2日後、ようやく義母の妙子さん(仮名)と電話がつながった時、無事を確認して安堵したあと、この話を聞いて私は驚いた。一体どうやって米を炊いたのか?

「お鍋とストーブで炊いたのよ」妙子さんはこともなげに言った。

妙子さんの家にあるのはごく普通の灯油ストーブだ。あのストーブでどうやって火加減を調節して米を炊いたのか、今でもよくわからない。聞けばよかったのだが、当時はほかに話すべきことが山ほどあり、米の炊き方に拘泥している場合ではなかった。

その後、複数名の親戚が津波で亡くなったことが判明し、ますます妙子さんに震災関連のことを聞ける雰囲気ではなくなってしまった。

それはともかく、炊飯器でしか米を炊いたことのなかった私は、妙子さんの生活力の高さに改めて舌を巻いた。戦争を生き抜いてきた世代の底力だ。ガスも電気もない状態で、手持ちの道具で米を炊けるというのは、究極の主婦力、いやサバイバル能力と言っていい。

巷では、土鍋で米を炊くことが「ていねいな暮らし」のお手本みたいに言われている。でも、鍋で米を炊くスキルはライフスタイル以前に、まずサバイバル技術として身につけておくべきものだ。妙子さんの体験談を通して私はそう思った。

ストーブとまでいかなくとも、カセットコンロで炊くことができれば非常時にかなり役に立つのではないだろうか。というわけで、鍋で米を炊く練習を始めたのだった。結局、それが習慣化して現在に至っている。

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■鍋炊きごはん

  1. 米を洗ってザルにあげる。
  2. 米と分量の水を鍋に入れ、30分吸水させる。
  3. 鍋に蓋をして中火にかける。
  4. 沸騰して蒸気が出てきたら弱火に落とし、10分加熱する。
  5. 火を止めて10分蒸らす。

   米1合に対して水は 1カップの割合。吸水時間は30分〜1時間が目安。沸騰するまでの時間は約10分。沸騰してから10分弱火をキープすれば炊ける。蒸らしがさらに10分。総所要時間は、

   吸水30分+加熱20分+蒸らし10分=60分

で約1時間となる。米を水に浸けてから、味噌汁やおかずを作っている間に炊きあがるイメージだ。 味はというと、炊飯器で炊くより断然おいしい。蓋を開けた瞬間に米が立っているのがわかる。ふわりと香ばしい香りがする。米粒が一粒一粒ちゃんとほぐれる感じがする。少しくらい時間が経ってもベチャッとしない。

炊飯器と違って内蓋を洗う必要がないし、洗い物が少ない時は本体も蓋も食洗器で洗えてしまうし、パッキンや水蒸気受けを外して洗う必要もない。メンテナンスは炊飯器よりもラクなくらいだ。

危機管理の一環として始めた鍋炊きごはんだが、意外と簡単でおいしいので、いつの間にか習慣として定着した。そのうち夫と息子にも炊き方を伝授しようと思っている。*(2016/9/26)